
珍しいペットをめぐる騒動を描いた映画『グレムリン』。主人公の飼うギズモの可愛らしさもあり、クリスマス映画の定番として根強い人気があります。
しかし、「グレムリンは日本人をモデルとしており、実は日本批判なのではないか?」という説が流れたことがあります。そこで、シナリオ面から『グレムリン』を徹底分析! 表のストーリーに隠された裏のメッセージを読み解きたいと思います。
目次
映画『グレムリン』の概要
『グレムリン』は、1984年公開のアメリカ映画。ペットの飼育法を間違えたために大騒動が起きるという、ホラー色の強いファンタジーです。
| 映画『グレムリン』 | |
|---|---|
| 原題 | Gremlins |
| 製作国 | アメリカ |
| 製作年 | 1984年 |
| 監督 | ジョー・ダンテ |
| 脚本 | クリス・コロンバス |
| 製作 | マイケル・フィネル |
| 製作総指揮 | S・スピルバーグ、フランク・マーシャル、キャスリーン・ケネディ |
| 出演 | ザック・ギャリガン、フィビー・ケイツ |
脚本はクリス・コロンバス。彼はのちに『グーニーズ』『ヤングシャーロック/ピラミッドの謎』の脚本を書き、『ホーム・アローン』『ハリー・ポッターと賢者の石』の監督を務めることになります。
『グレムリン』簡単なあらすじ
発明家のランダルは、チャイナタウンの骨董屋で不思議な生物・モグワイを購入。ランダルは息子のビリーに、この生物をクリスマス・プレゼントとして贈ります。
ビリーは、“ギズモ”と名付けられたその生物を可愛がりますが、飼育にあたって破ってはならない3つのルールがありました。
- 光に当ててはいけない。
- 水に濡らしてはならない。
- 真夜中を過ぎたらエサをやってはならない。
ある日のこと。
うっかり夜中の12時過ぎにエサを与えてしまったから、さあ大変! ギズモは分裂し、いたずら好きの小悪魔・グレムリンたちが誕生します。リーダー格のストライプに率いられたグレムリン軍団は、街で大暴れして・・・
ラストでは、“可愛い”という理由だけでモグワイを買ってしまったランダルは、反省します。自然との調和を考える東洋的な思想を受け入れる、というのがひとつの教訓となっています。
ただし、もう一つ、巧みに隠された裏のメッセージがあります。
考察!アメ車と星条旗は、日米貿易摩擦のメタファー?
『グレムリン』に登場する自動車やアメリカ国旗が意味するものとは?
映画『グレムリン』を何度も見返すうち、ある2つの点が気になりました。
① やたら車が登場すること
② やたら星条旗が登場すること
これは何かのメタファー(隠喩)では? 具体的に、車や星条旗が出てくるシーンを列挙してみます。数字はDVD版における登場時間。
雪のつもっている庭。ビリーは赤い外車のエンジンをかけようとするが、かからない。
隣人の失業者・ファッターマンの台詞。
「まったく! 外車ってのは、ちょい寒いとコレだからな。その点、国産車はいいね。どんな天気でも一発で(エンジンが)かかる。(中略)こんなチンケな外車とは出来が違う。さすがアメリカなのさ。何が外車だ。くそったれめ!」
酔っぱらったファッターマンの台詞。
「知ってっか? 外国製の車には、みんなグレムリンが仕込んであるんだぜ。先の大戦で飛行機が墜落したのもそのせいだ」
「奴らはグレムリンを輸出してやがる。今でも車やテレビ、ステレオにはみんなグレムリンが仕込んであって、その小悪魔どもがわしらに悪さするんだよ」
発明家のランダルは見本市から、ビリーのママに電話をかける。その横を、アメリカの国旗をつけた改造車が走る。
ファッターマンは、自宅で妻とテレビを見ている。画面が途切れる。
「まったく、外国製はこれだ。だから国産を買え、と言っただろう。外国人め!」
保安官事務所のギズモは、アメリカの国旗で顔を拭く。保安官の台詞。
「この子。アメリカびいきらしいな。国旗なんか振ってからに」
クライマックスの深夜のデパート。ギズモは、アメ車のミニカーに乗って疾走する。
『グレムリン』は、いたずら好きの小悪魔と人間のバトルを描いたファンタジーです。外国産の車が登場する必然性はないし、ましてやアメリカ国旗が出てくる理由もありません。
映画『グレムリン』の背景とは?自動車をめぐる日米の貿易摩擦

映画『グレムリン』が公開されたのは、1984年。
実は、この当時、アメリカの対日貿易赤字が問題となっていました。大きな引き金となったのが、1974年のオイルショックです。アメリカの消費者は燃費の良い自動車を求めるようになり、HONDAやTOYOTAの日本車が飛ぶように売れました。
アメリカの自動車大手は業績が悪化し、リストラの嵐が吹き荒れたのです。
『グレムリン』に登場する外国嫌いのファッターマンは、このときの失業者をイメージしたキャラクターです。だから、日本に恨み節を語るのです。
1980年代に入ると、アメリカは米・牛肉・オレンジの関税の引き下げ、そして自動車の輸出規制を日本に迫ります。
日米自動車摩擦 1970年代から繰り返す歴史: 日本経済新聞
このことから、『グレムリン』に登場する自動車や星条旗は、<日米貿易摩擦のメタファーである>と考えられます。
浮かび上がってくるもう一つのメッセージ。それは、
「日本車よりも、アメリカの国産車サイコー!!」
という主張です。
【マクドナルドやジーパンで“アメリカ文化”を輸出?】恐るべしコンテンツ・ビジネス!

では、『グレムリン』 のメタファーを仕込んだのは誰か?
まず、クリス・コロンバスがオリジナル脚本を書いたのは、大学生のとき。この台本は荒削りのホラーで、星条旗のカットも外国嫌いのファッターマンも登場しません。
いっぽう。完成版の脚本には、アメリカ産のミニカーが疾走するクライマックスに向け、細かな伏線が張られています。
・ドライブシーンのある白黒映画を見るギズモ(⇦ 古き良きクラシック・カー)
・見本市で走る改造車(⇦ 国旗でアメリカ産の車をアピール)
“アメリカの車が優秀である”というメッセージを、さりげなく伝えているのです(=イメージの刷り込み)。これだけ高度なメタファーを、アマチュアの大学生が書けるとは思えません。大幅に修正した“誰か”がいます。
ハリウッドでは、ひとつの映画に対して複数の脚本家が雇われ、何度もリライトが行われます。クレジットされている以外にも、何人もライターが関わっているのです。
- オリジナル脚本を書いた人
- 1回目のリライトをする脚本家
- 2回目のリライトをする脚本家
- スクリプト・ドクター(=脚本のお医者さん)
このリライトに関わった熟練の脚本家の改稿案がそのまま採用された、という可能性がひとつ。
また、監督やプロデューサーの指示を受け、リライト担当がメタファーを盛りこんだとも考えられます。
Happy birthday to the director of PIRANHA, THE HOWLING, GREMLINS, THE ‘BURBS, and so much more, Joe Dante!
Joe Dante appeared on the cover of FANGORIA vol 1, issue 38, in 1984. Check out the issue now in the archives: https://t.co/E2gl0PWK14 pic.twitter.com/JI6Xwl336s
— FANGORIA (@FANGORIA) November 28, 2022
では、そこに反日思想があったかというと、必ずしもそうは思いません。
映画といってもビジネス。
アメリカの自動車を持ち上げる内容にしたほうが製作費を集めやすいでしょうし、国内受けもよいでしょう。当時の経済情勢を考えれば、消費者に国産車をアピールするのは自然な流れです。
感服させられるのは、「日本車よりアメリカの国産車が優れている」というメッセージをこめた映画を日本に売りつけ、しかもそれが日本でクリスマス映画の定番になっているという事実です。
ジーパン。マクドナルド。Tシャツ。クラシック・カー・・・
私たちはハリウッド映画に心を動かされると同時に、アメリカ文化に“憧れ”を抱きます。つまり、ハリウッドは映画を通してアメリカ文化を売っているのです。
こっそりと政治的メタファーを仕込みながら、映画単体ではなく文化をパッケージにして売っている。 アメリカのコンテンツ・ビジネス恐るべし!