【何がすごいのか?】黒澤明 『羅生門』の魅力【原作は「藪の中」?芥川龍之介版「羅生門」との違いは?】

NHKで地上波放送!映画『羅生門』!黒澤明の名作の内容と魅力!複数視点から事件を語る

『七人の侍』などで知られる映画監督の黒澤明。彼の生誕110周年を記念して、映画『羅生門』のデジタル完全版が、NHKでテレビ放送されます。

 

この記事では、映画『羅生門』のあらすじと魅力、複数視点から事件をさかのぼる画期的な手法についてお伝えしたいと思います。

映画『羅生門』NHK BSでのテレビ放送はいつ?

『羅生門』は、1950年の日本映画。

ある男の変死事件の真相をめぐる、サスペンスタッチの人間ドラマです。

映画『羅生門』概要
英語タイトル Rashomon
上映時間 88分
監督

黒澤明(『七人の侍』)

原作 芥川龍之介『藪の中』
脚本 黒澤明、橋本忍
出演 三船敏郎、森雅之、京マチ子
受賞歴 ヴェネツィア映画祭 金獅子賞 
映画『羅生門』のテレビ放送は、2025年12月26日(金)。NHKのBSP4Kにて。
午前9:30 ~ 11:30

【参照】2025年12月の映画 – 映画カレンダー – プレミアムシネマ – NHK

黒澤明監督『羅生門』のあらすじとキャスト

かんたんな内容

 平安時代の京の都。

 あいつぐ戦乱と疫病の流行で、人々の心もすっかり荒廃していました。雨の降る平安京の羅生門(らしょうもん)では、3人の男が雨宿りしていました。

(⇦ 焚き木売り、旅の法師、下人の3人)

 

「わからねえ。さっぱりわからねえ」

 焚き木売りは、自分が参考人として出席した裁判のことを、思い出していました。

 

3日前。

 焚き木売りは、山の中で武士の死体を発見。すぐに事件を検非違使に届け出ます。

(⇦ 検非違使(けびいし)とは、いまの警察と裁判官を兼ねたような役人)

 

検非違使は、事件の関係者を集めます。盗賊の多襄丸(たじょうまる)、なくなった武士の。さらに、なくなった武士の魂を、巫女さんに呼び出してもらいます。

(⇦なくなった被害者本人にも真相を聞く、という発想が面白い!)

 

ところが、3人の証言はことごとく食い違っていました。いったい、誰が本当のことを話しているのでしょうか?

キャスト

  •  多襄丸(たじょうまる・盗人)・・・三船 敏郎
  • 金沢武弘(被害者となった武士)・・・森 雅之
  • 真砂(金沢の妻)・・・京 マチ子
  • 杣売り(そま売り・焚き木を売る人)・・・志村 喬(しむら たかし)
  • 旅の法師・・・千秋 実(ちあき みのる)
  • 下人・・・上田 吉次郎(うえだ きちじろう)

映画『羅生門』の魅力

 事件の関係者たちが自分に都合のよいことばかり証言して、真相がわからなくなる、というのがこの作品の面白さです。

 それに加え、この事件は計画的なものではありません。相手のちょっとした態度にめらめらと正義感が燃えたり、欲情したり、イラついたり・・・

 人間の場当たり的なエゴイズムと、それを正当化してしまう身勝手さが描かれています。

複数視点から事件を語る!海外映画に与えた影響も

 映画『羅生門』では、ひとつの事件を視点を変えて描く手法がとられました。

この手法は「ラショーモン・アプローチ」と呼ばれ、海外の映画監督たちに多大な影響を与えます。

マーティン・リット監督の『暴行』(1964年)は、『羅生門』の舞台をアメリカ西部に置き換えた作品。事実上のリメイクです。

 

他にも、たくさんの映画が『羅生門』の手法をマネています。

  • 娼婦殺しの容疑者たちが尋問を受ける、『殺し』(1962年)
  • 湾岸戦争の不祥事を描いた『戦火の勇気』(1996年)
  • 無名の男が、中国最強の刺客たちを倒した事件の真相を語る『HERO』(2002年)
  • 消息を絶ったレンジャー部隊の真実をあばく『閉ざされた森』(2003年)
  • 空・陸・海。3つの視点から語られる戦争映画『ダンケルク』(2017年)

 

 映画『羅生門』の脚本を書いたのは、黒澤明と橋本忍です。

しかし、「ラショーモン・アプローチ」が彼らの発明かというと、そうではありません。複数の視点から事件を語る手法は、もともと芥川龍之介の原作にあった要素なのです。

原作は、芥川龍之介の短編『羅生門』+『藪の中』

芥川龍之介の原作『羅生門』を、学校で習った人も多いのではないでしょうか?

筆者も、国語の授業で学びました。でも、映画『羅生門』をみて、こんな感想を抱きます。

 

 「あれ? こんな話だったっけ?」

羅生門で雨宿りしていた、下人と老婆。老婆は、死体から髪の毛をぬいてカツラにしようとする。下人は老婆の浅ましさを見下し、独りよがりの正義感から彼女を罰してやろうとする・・・

小説はそんな内容だったはず。

 

実は、映画『羅生門』で3人の証言がくい違う話は、芥川龍之介のべつの短編『藪の中(やぶのなか)』がもとになっています。今でも、「真相はやぶの中」という表現を使うことがありますが、その語源となった小説です。

 

興味をもった筆者は、古本屋で『芥川龍之介 全集』を購入します。つけもの石になりそうな、めちゃくちゃ重い本です。

 

芥川の小説『藪の中』のあらすじは、こんな感じでした。

物語は、平安時代、ある藪の中で起こった侍(武弘)殺害事件を扱っています。

検非違使(裁判官)による尋問形式で、事件に関わった複数の人物の証言が順番に語られていきます。 
主要な登場人物と彼らの証言は以下の通りです。 

木樵り・・・藪の中で男の死体を発見した人物。

多襄丸(たじょうまる)・・・逮捕された盗賊。自分が武弘を殺害し、妻(真砂)を奪ったと豪語する。武弘とは正々堂々と戦って討ち取った、と証言する。

真砂・・・武弘の妻。多襄丸に襲われ、夫に軽蔑されたと思い詰め、混乱の中でみずから夫を殺めたと証言する。

武弘の亡霊・・・霊媒師の口を借りて証言する。妻が多襄丸に誘惑され、自分も妻の裏切りと辱めに耐えきれず、自害したと証言する。

 

みんな証言がくい違い、何が真実なのか、わかりません。判断は読者にゆだねられる形を取ります。

 

『藪の中』はびっくりするほど短い短編で、5分もあれば読み終わります。めちゃくちゃ面白いので、手に取ってみてください。

 『羅生門』『藪の中』を2つとも掲載している文庫は少ないですが、読むなら文春文庫がおすすめです。

【何がすごいのか?】映画『羅生門』の魅力

場あたり的なエゴイズムと、ひとつの事件を視点を変えて描く手法は、原作由来のもの。

では、映画『羅生門』は何がすごいのか?

 

ひとことで言うなら、光と影の使い方です。

「自分が正しいんだ!」とばかりに強烈にエゴを見せたと思えば、シュンとして弱々しさも見せる。「エゴイズムのゆがみ」を、光と影でコントールした演出が見事なのです。

 

ぼやけた焦点で、「しゅん」と縮こまった心の弱さを表現し、自分の正当性を主張する場面では人物がくっきり映るように明度を高める。光と影とカメラのスピード感で、感情までをコントールする演出力。

(出典:Ebru Yıldırım on X)

 

黒澤映画を観ていて感じるのは、人間描写の巧みさです。ジャンルが違っても、いつも画面の奥に「人間」がいるんです。

『羅生門』でも、自分だけ助かりたいがために、証言をころころ変える多襄丸や真砂は滑稽に映ります。しかし、自分勝手で信頼がおけない点も、また「人間」の魅力。

 

黒澤明のヒューマニズム精神は、『生きる』(1952)や『赤ひげ』(1965)、『どですかでん』(1970)でも見てとれます。

誰よりも「人間」が好きで、「人間」を描いてきた映画作家だといえます。

 

物語を進行させるための記号としての「人間」ではなく、「生きた人間」がそこにはいます。